若手研究者の皆様、こんなことを考えたことありませんか?研究費の種類や仕組みについてもともと興味があった方はご存知かもしれませんが、科研費もしくは研究室の上司が取っていた研究費には馴染みがあるけれども、他の研究費についてはさっぱり…という若手研究者の方が多いのではないでしょうか?それはそのはず、誰も研究費の仕組みについて体系立てて教えてくれませんから!
このコラムでは、若手研究者のために研究費の種類、各種研究費の特徴、作られ方、研究費の傾向と対策などをお伝えしていきます。記念すべき第1回は「研究費の種類」講座です。
研究者が自ら応募できる研究費は「研究の進め方」と「研究費の財源」の2軸で整理することができます。研究の進め方は大きく分けてボトムアップ型とトップダウン型の2種類に大別することができます。ボトムアップ型の研究(費)は、研究費を獲得した研究者の自由な発想に任せて研究テーマを設定することができるものです。研究者の方々が真っ先に思い浮かべる科研費はボトムアップ型の研究費です。一方、トップダウン型の研究(費)は、研究費を提供する側が設定したテーマ・課題を解決するために提供される研究費です。環境問題、食糧問題、エネルギー問題といった社会が抱える課題を解決したり、企業が自社の製品について強化したいテーマを研究者が解決するための研究費がトップダウン型の研究費の例です。
このような説明を聞くと、研究が大好きな研究者の中には「ボトムアップ型の研究費の方が、自由に研究が進められて幸せじゃないか。学術研究の発展には世間の風潮に流されずに研究ができるボトムアップ型研究費の方が重要だ!」と思われる方もいるかと思います。しかし、研究は明るい未来社会を拓くための重要なエンジンでもあると捉えると、社会問題の解決を目指すトップダウン型の研究費もボトムアップ型の研究費と同じくらい重要であると言えます。トップダウン型の研究費は、iPS細胞のように国を挙げて重点的に特定の研究分野を強化するためにも重要です(例:戦略的創造研究推進事業)。
さて、研究費を大別するもう一つの軸が研究費の財源です。こちらは大きく分けて省庁・独立行政法人が提供する研究費と財団法人・民間企業が提供する研究費の2種類があります。研究費の種類にもよりますが、一般的に財団法人・民間企業が提供する研究費よりも省庁・独立行政法人が提供している研究費の方が大規模です。
省庁系でかつボトムアップ系の研究費である科研費補助金のうち、基盤研究(S)では5千万〜2億円、新学術領域(研究領域提案型)は1千万〜3億円の研究費を申請することができます。省庁系のトップダウン型研究費(受託研究費)としてはJST戦略的創造研究推進事業のCREST/さきがけ等が有名ですね。省庁系最大規模のトップダウン型研究費の一つであるERATOですと、なんと5年間で最大20億円の研究費を頂くことが可能です!省庁系の受託研究費は、1年で数10種類以上の公募が行われます。このように額の大きい省庁・独法系の研究費は大きな研究プロジェクトを進める上で非常に強力な財源になりますし、研究者の勲章になったりもします。受託研究なら、国レベルで社会問題を解決できる悦びも感じられることでしょう。
一方、財団法人や民間企業のボトムアップ系研究費である助成金・寄付金・賞は額が小さいものの比較的獲得しやすいものあるため、若手研究者にとっては狙い目だったりします。申請の手続き、中間報告、最終報告の手間が少ないのも魅力的です。財団法人・民間企業の助成金・寄付金の公募は、年間を通じて把握しきれないほど多数行われています。企業との共同研究・受託研究は、研究者と企業間の日々のおつきあいの中で生まれることが多いと思います。
このように研究費とひと口に言っても千差万別です。その種類によって、契約の形態、実施主体、資金の配分方法、知財の帰属先などが異なるため注意が必要です。研究費欲しさに適当に申請して採択されたのはいいものの、プロジェクトを回すのに面倒なことが多かったり、性格的に合わないといった理由で研究が滞った、なんて声もチラホラ聞こえたりします。
ところで、省庁・独法系の受託研究のテーマは誰がどのように決めているのでしょうか?「最近は○○分野の応募ばかりで▲▲分野の大型受託研究はちっとも話を聞かない」という嘆きを聞いたりすることも少なくありません。何故そんなことが起こるのでしょうか?次回の若手研究者のための研究費講座では、省庁・独法系トップダウン型研究費の設計についてお話します。